東洋医学について

西洋医学は組織や臓器の異常を引き起こした(直近の)病因を除去することにより症状を解消しようとするのに対して、東洋医学は体の偏向を是正することにより症状を解消しようとします。

西洋医学は主に人体の各パーツの治療を行い、東洋医学は主に統一体としての心身の機能を改善させます。

漢方とハリは、いずれも望診・聞診・問診・切診といわれる四つの診察情報を根拠に治療方法が決められます。ほとんどの場合、はじめの望診・聞診・問診の三診で決めることができます。

漢方治療の今

明治政府以来これまで医学教育に漢方は疎外され、医師免許取得に漢方の知識は不要でありほとんどの医学部で教育を受ける機会がありませんでした。

しかし、平成14年4月から全国80の医学部すべてで漢方医学の授業が行われるようになりました。超高齢化社会の出現やその他の理由から、今まで以上に全人的な医療(PartやComponentではなくWhole Bodyの治療)が必要とされてきたからだと思います。

現在では、医師の約9割が漢方を処方し約6割が一部の疾患で第一選択薬としているといわれます(日本漢方生薬製剤協会)。

漢方薬は規格品のエキス製剤はもちろん、きざみの生薬による場合であっても特殊な生薬を除き健康保険適応です。

漢方の有効性

漢方薬のエビデンス(効果があることを示す証拠:ランダム化比較試験結果にこそ科学性があるとみなす考え方による証拠)は日本東洋医学会のホームページに公開されています。

エビデンスがあるにもかかわらず診療ガイドラインで漢方が取り上げられていない疾患もあります。奇妙なことです。

漢方と経絡

経絡《全身に分布し気血をめぐらせて生体の恒常性を保っている機構》とは東洋医学の根幹となる生理機能です。

漢方は、十二経絡の手足の違いは考えずに三陰三陽の六分類のみで分類します。そのため、一方剤の適応(経絡)範囲が広いといえます。これは漢方の利点であり、一方剤の作用がその方剤固有の経絡だけでなく病位的に近傍の他の経絡にも及ぶことを意味しています。

また、漢方では気がめぐるルートである経絡は考慮されずに気の状態(気虚、気うつ・気滞、気逆など)が論じられます。経絡が考慮されないため陽気と陰気の区別がなく、したがって陽経陰経それぞれにおける陽気陰気の流れの方向の違いも考慮されることがありません。

鍼灸治療の今(海外)

WHO(世界保健機関)は1991年に鍼灸に対する科学的評価を与え、NIH(米国立衛生研究所)の専門委員会は鍼灸を医療保険でカバーすべきであると1997年11月5日に報告しています。

その後、2002年に鍼治療の適応疾患に関する冊子をWHOが発行しています。

鍼の効果に対する大規模臨床試験は米、英、独、仏、カナダ、スペインなどで行われ、米国やEUの一部でハリ治療が保険診療の対象となっています。フランスでは医師資格を有する人が大学で3年間ほど学ぶ認定制度になっており、ドイツでは医学教育に鍼の講義が取り込まれていて医師のうち約二万人が鍼治療認定医の資格を持っています。イギリスでは、我が国の日本医師会にあたる英国医学会(BMA)が2000年7月1日に鍼に対する調査報告を発表し、鍼治療は国民健康保険システムのもとでの医療においてもっと利用されるべきであり、ホームドクターに対してハリの技術訓練を受けるように勧告しています。

鍼灸治療の今(日本)

鍼灸師が施術所で施術する場合に医師の承諾下でごく一部の疾患に健康保険が適用されますが、医師や鍼灸師が保険診療機関である病医院内で施術する場合は診療報酬の適応がありません。国が諸外国での試験結果を考慮せず認可しないことが、一般の医療者に対してまで誤解を与えてしまっている現状です。

医学部教育では、漢方教育の課程内で一般教養レベルの鍼灸教育が80大学医学部の約3割で行われているだけです。但しその有効性から現在非常に多数の保険診療医療機関で鍼灸治療が取り入れられています。公立病院でも古くは富山県の市立砺波総合病院(現東洋医学科鍼灸部門)や東京大学医学部附属病院(現リハビリテーション部鍼灸部門で自由診療)では昭和50年代からハリ治療が行われています。

鍼灸の有効性

ハリ治療のエビデンス(効果があることを示す証拠)については、医道の日本社発行の雑誌『医道の日本』2011年1月号の【特別座談会】“『代替医療のトリック』を受け入れられないこれだけの理由”が大変参考になります。

そもそも病とは何か、治るとはどういうことか、健康とはどういうことか、基礎医学から臨床医学への論理的飛躍はなぜ話題すらならないのか、エビデンスの概念はdiseaseの治療に対してのようにillnessの治療に対しても確立できるのか、etc.  いろいろと考えさせられます。

基礎医学と臨床医学の乖離は脳循環研究領域においても深刻のようです。2015年6月に脳リンパ管の存在が示されました。ヴァージニア大学とヘルシンキ大学の研究グループがほとんど同時に独立して発表したものです。いわゆる科学研究における“同時発見”です(←研究のタイミングのシンクロ現象といわれています)。

今後は、グリンパティックシステムという最近の理論と共に脳脊髄液や脳間質液の吸収経路が新たに構築し直されることになるのでしょう(渡辺実千雄.脳脊髄液の吸収路について.2015年度日本ENRAC医学会/一般口演)。

鍼灸と経絡

経絡《全身に分布し気血をめぐらせて生体の恒常性を保っている機構》とは東洋医学の根幹となる生理機能です。鍼灸は、手足の三陰三陽の十二経絡で配穴を考えますので漢方よりは精細に分類しなければなりませんが効果は鋭くなります。

使用する経絡は、通常は体用(体と用)の二経絡ですが、本経一経絡や一経穴だけで有効のこともあります。熱証には鍼のままで、また寒証には灸頭針・電子温灸などを用いることで対処でき、漢方の涼薬温薬またはそれ以上の効果を示すことが出来ます。